【イベントレポート Session-1 <後編>】

『デジタルxアナログ』と次世代広告ビジネス
「プリントテックxコンテンツ。消費者の心を動かす最適解」

2020年2月17日、最新テクノロジーと事例の発表を通じてオンラインとオフラインを繋ぐプリントメディアのマーケティング活用の可能性を再発見するフォーラム「ORBIT(“Omni Media”Marketing Forum)」が開催されました。
各セッションごとのイベントレポートをお届けします。

【 Session-1 登壇者 】
 ■日本郵便株式会社 郵便・物流営業部長 大角聡氏
 ■株式会社集英社 ブランド事業部 部長 小倉千絵氏
 ■株式会社グーフ 代表取締役 岡本幸憲氏
 ■<モデレーター>株式会社博報堂プロダクツ 大木真吾氏

>>前編「プリントテック×コンテンツ。消費者の心を動かす最適解」を読む

プリントメディアのパワーは、7つの“Right”で最大化できる

デジタル/アナログを問わず、コミュニケーションの効果を高めるポイントとして重視されてきた「ライトタイミング」「ライトメディア」「ライトオファー」。これに加えて、特にプリントメディアにおいて重要なのが、「ライトプレース」「ライトファンクション」「ライトクリエイティブ」「ライトコネクション」だ。ターゲットごとに最適なチャネルとフォーマットで、最適なタイミングに、最適な表現で届けてこそ、コンテンツは真価を発揮することができる。本セッションでは、その実現に向けた技術革新と、企業の挑戦の最前線に迫った。今回はその後編をお届けする。
前編はこちら>>

集英社が取り組むデジタル×アナログ融合の最前線

「多様な表現手段とデリバリー方法」というプリントメディアのアドバンテージを活かしている国内の事例として、集英社のコンテンツ活用の最新動向が紹介された。

下はティーン向けの『SEVENTEEN(セブンティーン)』から、上は40~50代向けの『éclat(エクラ)』まで、幅広い年齢層をターゲットにファッション誌を刊行している集英社では、コンテンツの力をビジネス成果につなげることを目指し、デジタル×アナログを融合した取り組みを積極的に進めている。

この取り組みを推進するのは、小倉千絵氏率いるブランド事業部。具体的には、雑誌コンテンツを最大限に活用しながら、月間1200万UUのWebメディア「HAPPY PLUS」および公式オンラインストア「FLAG STORE」を中心に多様なタッチポイントを運用し、デジタル×アナログをシームレスにつないだブランド体験を顧客(読者)に提供することで、ECの売上向上を目指している。

「デジタルマーケティングはいわゆる“刈り取り”に偏重しがち。マーケターがニーズを生み育てる“農耕民族”にならなければ、顧客獲得はたちまち難しくなると思います。私たちがこれまで『あって当たり前』と思っていたコンテンツは、ニーズを生み育てることができる有用なものなのだと、その価値を再認識しています」(小倉氏)

株式会社集英社 小倉千絵氏


特に大きな成果につながった施策として、30~40代女性をコアターゲットとしたファッション&ライフスタイル誌『LEE』のコンテンツ活用事例が紹介された。三陽商会の「100年コート」の認知拡大を目的とした取り組みだ。

『LEE』とのコラボレーションモデルを制作した上で、誌面6ページにわたる特集を組んで「細部のこだわりポイント」「着回し術」「生産現場・生産者」を紹介。コンテンツは「HAPPY PLUS」にも転載し、商品を「FLAG STORE」(Web/リアル店舗)で販売したところ、初回生産分の400着が瞬く間に完売した。現在までの累計売上は1億円という大ヒットを記録している。

「コンテンツは、見た人の『記憶に残す』のが得意。瞬間風速ではなく、継続的に売れたことは、その証左ではないでしょうか。コンテンツを通じて知った商品を、何かのきっかけで『そういえば、あんなアイテムあったな』と思い出して、買ってくださる方がたくさんいたのだと思います」(小倉氏)


雑誌や「HAPPY PLUS」といったメディアに掲載される商品数は、「FLAG SHOP」の全取扱商品のわずか6%に過ぎない。しかし掲載商品の売上は、売上全体の実に48%を占めるという。小倉氏はそうしたデータを示した上で、「コンテンツは、デリバリーとセットになって初めて効果を発揮します。ターゲットにしっかり届きさえすれば、コンテンツには売る力があるのです」と強調した。今後もコンテンツを活用したビジネス成長を目指していくべく、「HAPPY PLUS」と「FLAG SHOP」は統合され、2020年2月「HAPPY PLUS STORE(ハッピープラスストア)」としてリニューアルオープンを果たした。

取り組みの中で、「パーソナライズしたプリントメディア」にも関心を強めているという小倉氏。例えば、「FLAG SHOP」で初めて買い物をした人には、サイトのコンセプトやこだわりをまとめたブランドカタログを送付している。ECで買い物をした人の多くは、どのECで購入したか認識・記憶していないという前提に立ち、「FLAG SHOP」をリマインドする目的でスタートした施策だ。

また、「FLAG SHOP」で買い物をした人に商品同梱で送付していた「FLAG SHOP マガジン」を2019年8月で廃止し、よりパーソナライズしたコンテンツ発信に向けて準備を進めている。洋服、靴・バッグ、化粧品など幅広い商材・商品を網羅的に掲載するのではなく、ターゲットに合わせてコンテンツを出し分ける予定だ。


長年、紙とともにあり続けてきた集英社が取り組む、丁寧かつ本気度の高いプリントメディア活用の事例に触れ、「デジタルとアナログの決定的な差は、人の心を動かす力の強さ。触覚や視覚、嗅覚に作用して心を動かし、行動を喚起し、コンバージョンまで持っていく力がプリントメディアにはあると、改めて実感しました」と大角氏。

大木氏は、デジタル×アナログをまたいだ多様なタッチポイントにおける体験を通じて、ユーザー(読者)をファン化することに成功しているのではと指摘。デジタルとアナログを行ったり来たりする中でいかにロイヤリティを高めていくか、いかに顧客のロイヤル度に応じた施策を展開していくかが重要だと話した。

最後に岡本は、プリントメディアを含めたアナログのタッチポイントをより一層デジタル化していく必要性を指摘。「最近はマーケターの方々と『DMや店舗で接触した後の、ユーザーの態度変容を可視化できないか?』という話をしています。デジタル上の行動データを基に、DMをはじめとするアナログ施策を打つことは難しくなくなりました。今後は、アナログのタッチポイントでも行動データを取得し、その次のデジタル/アナログの施策につなげていくことに挑戦していきたいですね」と、真のオムニチャネルコミュニケーション実現に向けた意気込みを表明し、セッションを締めくくった。