出社途中の電車内、スマートフォンでECサイトをチェック。欲しいと思っている秋物のジャケットをぐるぐると見て回り、いよいよコレにしようと思ってカートに入れた所でまた迷い初めて会社に到着し、一旦は忘れて業務へ。帰宅時にスマートフォンでメールをチェックしていると、ECサイトからお買い忘れはありませんかのメールを見つける。メール本文には悩んでいたジャケットの写真が並び、やはりと思い立ってサイトに戻り購入を完了してしまう。体験したことのある人も多い、デジタルマーケティングのカート落ち施策です。


通信販売を展開するディノス・セシールではこの様なデジタルマーケティングの技術と、同社が得意とする紙メディアを見事に統合。両技術、メディアの特性をうまく活用した新たな2種の紙メディア施策を実施し、日本郵便の主催する全日本DM大賞において見事2019年のグランプリを受賞しました。

1つ目が上記のカート落ち施策を最短24時間発送の紙メディアでも実現したカート落ちDM、2つ目がファッションAIを活用した顧客へのコーディネートを提案する小冊子です。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。

カート落ちDM

カート落ちDMは、デジタルと紙をリアルタイムで連携させた施策で、従来デジタルだったものをアナログ化することでさらなる付加価値をもたせる事に成功しました。

一般的にECサイトのカート落ち率は70%近いとも言われ、この離脱した見込客のフォローには従来Eメールなどのデジタルメディアが利用されてきました。しかし一方で、そもそも消費者のEメールの開封率自体が低下しているという課題も出てきています。また、Eメールの開封率はメールの届いた瞬間が最も高くなる傾向があるため、マーケターは業種や業態による顧客の特性も考慮し何曜日の何時頃に情報を届けるのが最適か改善を繰返しています。

ディノス・セシールはこの見込客フォローに、同社が得意とする紙メディアを活用しました。紙メディアの特性の一つとして、Eメールに比べて開封率が高いという点があります。一旦は顧客の目に付く可能性が高いです。さらに、紙メディアは直ぐには捨てられにくいという特性もあります。DMを受け取った半数近い人は直ぐに捨てるのではなく、一定期間保管したり、人に渡したりするというデータが出ています。これはEメールとは決定的に異なる特性です。

カート落ちDMではカート落ちから最短24時間で発送という、顧客が最も『欲しい』と考えている関心の高い時点を逃さず、パーソナライズした紙メディアを届けました。結果として、メールのみを送った顧客と比較して、メールとDMの両方を送付した顧客の方が、コンバージョン率が約20%アップするという結果を得ることが出来たそうです。


この実現に同社はグーフの提供するPrint of Thingsサービスを活用し、データの連携から発送までの業務の自動化を実現しました。情報を届けるメディアの順序やタイミング、送付対象とする顧客の属性などを調整することで、より顧客にとっても価値あるメディアとすべく改善を行っています。

コーディネート提案 小冊子DM

コードディネート提案の小冊子は、ファッションAI「#CBK scnnr」を活用した施策で、顧客の購入商品に近いアイテムを着こなしている写真をInstagramから抽出し、パーソナライズした小冊子としての発送を実現しました。
実際に購入した商品が表紙となり、近いアイテムでコーディネートされたInstagram写真が並びます。さらにそのコーディネートで利用されているのに近い同社商品の紹介も入った8ページの小冊子となっています。過去にもコーディネート提案をEメール施策で実施したことはあり、反応は悪くなかったとの事だが、本事例ではさらにAIのテクノロジーを活用し自動化まで成功させています。

自分の購入した持っているアイテムに対してこの様な小冊子が届いたら、とてもワクワクしすぐには捨てられないのではないのでしょうか。顧客に大きな体験価値を提供する事につながるでしょう。


実際、この小冊子施策ではカタログに対するロイヤルティが上がりづらいWebの顧客層のレスポンスが、約10%アップするという成果を出したそうです。同社のネット受注比率は年々アップしているそうですが、今でもチャネルとしてのカタログについても重要視しているといい、様々な施策が顧客のカタログへの興味にもつながればと考えているそうです。


全日本DM大賞審査員である博報堂ケトルの木村氏は同社の施策に対して「もし『DMの歴史』という教科書があったら、年表の2018年のところにはこの仕事が書かれるでしょう。」との賛辞を送っています。それほど紙メディアの使い方、未来にインパクトを残す施策となりました。
販売促進だけでなく、特に顧客のロイヤルティやライフタイムバリューに向けた取組において、デジタルを補完する形での紙メディアの活用が今後期待されます。