【イベントレポート Session-4 <前編>】
デジタルトランスフォーメーション(DX) SDG’s /サーキュラーエコノミー
「サステナブルな社会の実現に向けたプリントテックの革新とDX」
2020年2月17日、最新テクノロジーと事例の発表を通じてオンラインとオフラインを繋ぐプリントメディアのマーケティング活用の可能性を再発見するフォーラム「ORBIT(“Omni Media”Marketing Forum)」が開催されました。
各セッションごとのイベントレポートをお届けします。
【 Session-4 登壇者 】 ■株式会社ビジョナリーホールディングス(メガネスーパー) 執行役員 デジタルエクスペリエンス事業本部 本部長 川添隆氏 ■株式会社ディノス・セシール CECO 石川森生氏 ■アクティブ合同会社 CEO 藤原尚也氏 ■<モデレーター>江端浩人事務所 代表 江端浩人氏
サステナブル時代のコミュニケーション活動に、プリントテックが有効な理由
SDGsが世界の共通言語・共通目標となり、企業活動にもサステナビリティが強く求められる中、プリントメディアも「無駄の削減」に取り組みながら、これまで以上に良質な体験を提供することを目指す必要に迫られている。プリントメディアのエモーショナルな効果と、デジタルテクノロジーを掛け合わせることで、サステナビリティ時代のブランドにふさわしいコミュニケーション施策を実現することができるようになりつつある。プリントテックの可能性と、マーケティング・コミュニケーション領域のデジタルトランスフォーメーション(DX)の現在・今後について議論を交わした。
今回はその前編をお届けする。
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SDGsの文脈で、プリントテックを捉える
江端:本セッションのテーマは「サステナビリティとプリントテック」。グローバルの共通言語であるSDGsに沿って整理すると、全17のゴールのうち、主にプリントテックが関連するのは「12:つくる責任、つかう責任」「15:陸の豊かさを守ろう」「13:気候変動に具体的な対策を」の大きく3つでしょうか。
従来のプリントメディアは、とにかく大量印刷・大量配布が基本であったり、読まずに捨てられるケースが多かったりと、「環境」や「資源」の観点から問題がつきものでした。ディノス・セシールは、パーソナライズしたプリントメディアの活用に、大きな投資をしていますね。
石川:当社はカタログ通販事業者なので、これまでかなりの紙を消費してきました。しかし、同一の情報を同一のクリエイティブで大量に刷って、購買までのステージも趣味嗜好も異なる人に一括で送る時代は終わり。デジタルマーケティングの手法や技術を用いて、「送るべき人だけに、送るべきものだけ」を送る仕組みを構築し、無駄をなくしていく道筋が見え始めています。デジタルテクノロジーは、SDGsを踏まえつつプリントメディアを有効活用していく突破口になり得る。引き続き、積極的に活用していくつもりです。
プリントメディア(ダイレクトメール)のパーソナライズに関するテストは、当初Webチームだけで進めていました。会社に対してはほとんど“ダマ”に近い状態だった(笑)。タイミング良く「全日本DM大賞」を受賞することができ、それをきっかけに、社内にも周知することができました。
本来あるべき順序とは逆でしたが、だからこそ実現できたのだとも思います。なにしろ僕は「CECO」=ECの責任者として入社した立場ですから、EC以外にまで口を出すことはミッションとして持っていなかった。そのため、あくまでWEBの施策の延長とすることで、自由度高く、スピーディに動くことができました。
現在はプロフェッショナル職として“社内フリーター”のような立場で、8部門を兼任しながら、ディノス・セシールのデジタルトランスフォーメーションを推進しています。組織横断で臨まないと、進まないことって多いんですよね。これも、“本業”であるECについてしっかり腰を据えて運用体制を構築し、社内の信頼を得たことで、次の展開として紙⇔デジタルを横断して動くことをミッションにできた感じです。
川添:従来の小売業だけでは、遠くない未来に限界を迎える――そんな危機感の下、メガネスーパーでは近年「お客様のQOL向上に向けたアイケア」を軸としてきたが、今後は「医療」との連携を視野に入れ、既存の枠組みにとらわれないビジネス創出・拡大に取り組んでいます。メガネやコンタクトレンズという商材はもともと医療と近い関係にあります。例えば、メガネスーパーが窓口となって、小売りと医療の橋渡しをするような方法を、さまざまな角度から模索しているところです。SDGsのゴール3「すべての人に健康と福祉を」と言えるレベルを目指していきたいです。
その取り組みの一つとして実現したのが、医療IT大手・エムスリーとの資本業務提携。連携の取り組みは鋭意検討中です。今後、メガネスーパーをはじめとするビジョナリーホールディングスグループのお客さまの眼の健康維持・向上サポートするサービスをより一層充実させていきたいと考えています。
サステナブル時代の企業に求められる「デジタル化」をどう進める?
江端:メガネスーパーは、デジタルマーケティングの手法を取り入れたDMの活用にも取り組んでいますね。プリントテックの導入をはじめ、オンラインとオフラインをつないだ顧客体験の提供に向けた変革を、全社的に進めることができている印象です。
川添:オンラインとオフラインをつなぐ部分はこれからな部分が多いですが、様々な経営変革を可能にしているのは“危機感”だと思います。Session2で、「日本企業がオムニチャネル戦略を進めようとすると、組織の壁に直面する」という話が出ていましたね。たしかに、過去の成功体験に縛られる企業は多い。スタートアップのように、新しく事業を始めたばかりの会社であれば、セールスフォース・熊村さんが提示していたような「Customer360」のような状況も実現しやすいのでしょうが、既存企業にはかなり難易度が高いと思います。
熊村さんが「『もう後がない』と気づくことが変革のきっかけになるケースが多い」ととおっしゃっていましたが、当社もまさに「後がない」状態だったからこそ、変革に取り組むことができていると思います。業績の悪化が止まらず、2008年4月期に赤字転落。その後、2012年には投資ファンドの支援が入りました。2013年に現在の代表である星﨑が入社(私も同年)し、ようやく経営が黒字化したのは、2016年4月期のことです。こうした背景を基に、星﨑の強いリーダーシップがあったことで会社全体に「利益体質に転換しなければ」という強い意識を根付いたこと、また経営トップが「仲良くすること」を企業文化に取り入れたこと。こうした状況があったから、組織の壁は比較的打破しやすかったですね。
また、企業のデジタル化を進めていく上で、ある一定のレベルに達して以降は、必ずしもデジタル関連部門がすべてを取り仕切る必要はないのではとも考えています。さまざまな部門に、デジタルの手法・技術を少しずつ注入していくことが、結果的にデジタル化の近道になるのではないかと。我々は、関連部署やキーマンに“武器”を渡すというやり方で、メガネスーパーのデジタル化を進めています。もう少し具体的に言うと、プリントメディアを扱うマーケティング部門に、デジタルテクノロジーの橋渡しをしました。
石川さんから紹介された「Re;p」がまさにそれです。顧客データに基づき、最適なタイミング・コンテンツでDMを自動発送することができるツールです。これを活用して、メガネをご購入いただいたお客さまに次のキッカケをご案内するパーソナライズDMを展開しました。お客さまの年齢や性別、メガネの度数、購入商品の種類などから8パターンのシナリオを生成し、購入(受注・お渡し)から1週間後に自動送付。デフォルトでシナリオが設定されていますが、店頭での密な接客で得られる情報を活かしすために、店頭スタッフがシナリオを自由に変更できるようシステムを構築したこともポイントです。最初の橋渡しだけで、現在はマーケティング部門で運営して更なる発展を目指しています。
石川:全国380店という強力なタッチポイントを活かした取り組みですよね。このツールは、ぜひ店舗を持っている企業に使って欲しいと思っていました。川添さんに紹介しに行ったときに、すぐ別の方に取り次がれたので、「あれ、川添さんは興味ないのかな…?」と心配になったのですが(笑)。
川添:メガネスーパーの売上全体に占めるEC関与売上の比率は2.5%程度。店舗が売上のメインであり、リピーターのお客さまとのコミュニケーションツールとしてDMが役立っています。だから、デジタルコマースよりもDMのようなアナログへの投資を最適化したほうが、会社全体の利益につながると思ったんです。
メガネスーパーでは、毎月40~50万通のDMを約60パターンで出し分けるという運用業務を一人のマーケティング担当者が担っていました。いわば“手動MA”のような状態で、担当者の負担が非常に大きかった。また「メガネのお渡し日から1週間後の購入が多い」というデータもあり、パーソナライズしたDMでリテンションすればもっと効果が上がるのではと、かねてからマーケティング担当者が考えてもいた。あとはそれを実現する技術さえあれば…という状況だったので、まさに渡りに船でしたね。
藤原:「洋服の青山」では、長らくDMの大量印刷・大量発送を行ってきましたが、、僕はただ闇雲にDMを減らすのではなく「本当に必要な人に、必要な情報を送る」ということを実現したいんです。2019年に本格運用し始めたMAを活用しながらやれば、効果的なDM活用が可能になるはずです。
江端:石川さんは、デジタル部門がある意味“越権”する形で、プリントメディアのデジタル化を実現。一方の川添さんは、担当者に“武器”を渡す形でそれを実現しました。藤原さんはどんな方法で、デジタル化を成し遂げますか?
藤原:当社に限らず、スーツを着る人・機会がどんどん減っている中、全社的に危機感は高まっています。そのためデジタルを“武器”として使えるようになろうという意識のほうが強い。デジタル化が進めやすい状況にあると感じています。